#9 クレイジー×クレイジー




 というか、普通こういうのって、
専門の人がアナウンスするのではなかろうか。
だというのになぜ、直接論悟さんの声が聞こえてくるのだろう。
 晴子が半ば呆然としていると、
ややもするとばたばたと騒々しい足音が複数、
遠くから近付いてきていた。スーツ姿の、中年の男性陣。
「社長、何者かに館内のアナウンス用コードがジャックされました!」
「分かっている! この声は、たぶん、また奴だ!!」
「くそっ、また来やがったのか、あの男!!」
 口早に罵りながら、男たちは晴子の傍らを走り抜け、どこかへと行ってしまった。
 晴子は駆け去っていく男たちを、夢見心地の瞳で眺めていた。
一般で言う、遠い目、というやつだ。
「・・・論悟さん・・・・・」
 とりあえず呟いてから、晴子はかごをとりおとした。

 しかし晴子が我を失っていたのもつかの間、
どこからか唸るローター音が聞こえてきて、
そしてそれはすぐさま巨大な騒音となった。
 聞き覚えのある音。先ほどまで乗っていた、ヘリの。
「まさか・・・」
 その音から判断すると、どうやらヘリは建物のすぐ隣―――
つまりは、窓のすぐ外にいるらしかった。
 晴子は窓に駆け寄った。ちなみにここは、7階である。
「ハルさーーーん!」
 窓辺から外の夜景を見れば、
ヘリから身を乗り出すようにした論悟がやたら巨大なスピーカーで叫んでいた。
開けてもいない(というか開けられない)窓越しにも、聞こえてきた。
セバスチンがタキシードをはためかせながらヘリの操縦をし、
すでにクロロと鮮華はヘリに搭乗していた。
とりあえずまだ、日暮とアユムはいないらしい。
 と、そこまで確認したところで突然、
ガラスの割れる音がどこからか響いてきた。
咄嗟に天井を仰ぎ、上階だったと気付く。
 そして外には、舞い落ちる無数のガラス片。それと・・・

「アユムさん?!」

 両手をかばうように顔の前で交差しながら、白衣を羽ばたかせ。
 アユムが頭の紙袋に野菜やら得体の知れないものやらを突き刺したまま、
ヘリへとダイブしているところだった。
華麗なまでのフォームで舞ったアユムは危なげなく、
さながらハリウッド映画のようにヘリの足に掴まった。
「そんな・・・アホな・・・」
 再度呆然としながら、
当然のような対処をする鮮華とクロロを見て晴子は呟いた。
「まさか、私にもあれをやれとか言わないよね・・・?」
 いまいち、現実味がありすぎて笑えない。
 しかし晴子の心配も、ある意味では杞憂に済んだ。
 ドドドドド・・・・
「こ、今度は何・・・?」
 窓とは反対側、つまりは階段方面から、
地を這うような重く鈍い排気音が近付いてきていた。
それと同時に、複数の足音、再び。
「待てやーー!!」
「お前、あの男の仲間だろ!?」
「ハッハー! 君たちに私は捕まえられないさ! なんせこれに乗ってるしね!」
 やはり晴子が動けぬまま待っていると、
そう時間もかからぬうちに日暮が姿をあらわした。

 なぜか、いかついバイクに乗っていた。

 どこからか調達した黒いサングラス(眼鏡の上からかけていた)
を得意げに指で動かし、口端を吊り上げた。
「さあ、ハル! しっかりと掴まれよ?!」
「え、え、え・・・えぇぇぇぇぇ!?」
 もはや呼び捨てになっていたことにツッコむことも忘れ、
晴子は迫り来る単車を見つめた。
日暮が左手でハンドルを掴んだまま、右腕を大きく開く。

 そして気付いた瞬間には、その腕に身体を抱き抱えられていた。

「キャァァァァァ?!」
「ハーーッハァ! 君たちの敗因は、
5階に自動車売り場を置いていたこと、
そしてこの私がいたことだ!」
 なぜか怪盗のような置き台詞を発しながら・・・

「イヤァァァァァァ!?」

 晴子を担いだまま、日暮のバイクは窓ガラスをぶち破っていた。




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