創られしモノへの子守唄(ララバイ)




そろそろ年の瀬も押し迫った冬のある日。
いつ雪がちらつき始めてもおかしくないようなどんより濁った雲の下、
そんな重苦しさとは無縁な、むしろ跳ね飛ばしてさえしまいそうな
元気で明るい声で少女が歌いながら歩いていた。

「きょーおっのごっはんーはあったかしっちゅーっ♪
おっなべーでこっとこっとあーいじょーぉひっとさーじ♪
こっころーもかっらだーもぽっかーぽかーぁ♪」

はちきれんばかりの笑顔で歩く銀髪の少女、システィアナに
僕は思わずクスリと忍び笑いを漏らす。

「ほら、システィ。あんまりはしゃいでると転ぶよ?」

僕の言葉にも関わらず、システィアナは
僕に向かって手を後ろに組んだまま
少し後ろを歩いていた僕の方へとくるりと体を回転させた。
その際、軽くふわりと舞い上がった紺色のドレスの裾や
彼女の頭できらきらと踊る長い銀髪に
僕は思わずどきりとさせられる。

「大丈夫ですよーだっ。私そんなドジっ娘じゃ・・・きゃっ!?」

悪戯っぽい表情でいうシスティアナだったが、
その言葉を最後まで言い終わるより早く、
踵をつまづかせて盛大に尻餅をつく羽目になった。

「・・・いっ・・・たぁ・・・」

目の端に涙を滲ませて座り込んでいるシスティアナに
くっくっと喉の奥で笑いながら僕は右手を差し伸べた。

「わっ・・・私そんな・・・なんだって?」

「・・・ぅぅ・・・、なんでもありませぇん・・・」

僕は爆笑を堪えるのに腹筋を総動員しながらそう尋ね、
システィアナに向けて右手を差し出した。
システィアナは目の幅涙を流しながら消え入りそうな声で呟いて
僕の手を取って立ち上がるのであった。
この子を傷つけないようにするために、
僕は笑いの衝動を必死で押さえ込まなければならなかった。

そして思う。
・・・一体この子のこの様子を見て、
誰がこの子を"創られた命"、ホムンクルスだと思うだろう、と。



「大体クーイ様、意地悪ですっ!」

先ほど笑われたのがよほど恥ずかしかったのか、
あれからシスティアナは僕の横を歩きながら
僕にくってかかっていた。
耳まで真っ赤にしているのは怒り半分恥ずかしさ半分といったところだろう。

「いやでもそれはだな・・・」

そんなシスティアナに僕はやはり苦笑しつつ
何とか彼女を宥めようとしているのだけれども、
システィアナはそれで宥められてやるつもりはないらしく、
ふいっとそっぽを向いてしまった。
やれやれ、すっかりお姫様のご機嫌を損ねてしまったらしい。

「デモもストもありませんっ!大体・・・あら?」

僕らの帰る店がもう目の前にある、そんなところで、
ふと向けたその視線の先に何かを見つけてシスティアナが声をあげる。
僕もつられてそちらの方に視線を移すと、
僕たちの前方から人が歩いて来るのが見えた。
見たところまだ年若い、おそらく二十歳を超えるか超えないかの女性は
ふらふらとした危なっかしい足取りで歩いていた。

「あの人・・・具合でも悪いのでしょうか?」

流石にシスティアナも心配そうに僕に声をかける。
その声は暗に「お店に連れて行きましょう」と告げている。
確かにあの様子だと相当具合が悪そうだし、
この付近に医者はないから僕の店が一番適当かもしれない。
そう思った瞬間、

「あっ・・・!?」

体勢を大きく揺るがせた女性を見て、システィアナが思わず声を上げた。
僕もその声に弾かれるようにシスティアナの横を飛び出し、
大きくよろけて地面に倒れそうだった女性を
一瞬早く自分の体を滑り込ませることで抱きとめた。

「わぁっ、クーイ様お見事っ!」

そう歓声を上げながら駆け寄ってくるシスティアナだったが、
僕はそんな彼女に笑みを返す余裕もなかった。
・・・この抱きとめた女性の体の冷たさに。

「システィ」

僕はシスティアナの名を呼ぶと、
ポケットの中にあった店の鍵を彼女に向けて放り投げた。
それを面食らった様子で受け止めたシスティアナに僕は、

「すぐに寝かせるところと暖炉の準備をお願い」

とだけ伝えると、
僕の腕の中でぐったりして動かない女性を背負った。
システィアナも僕の普段と違う雰囲気を察したのか、
黙って頷くとすぐさま店の中へとその姿を消していった。

「やれやれ・・・神様って奴は一体僕に何を望んでるのやら・・・」

信じてもいない神にそんな言葉を向けて僕は苦笑を漏らし、
背中に担いだ女性の重さを感じながら、
僕は彼女を店の中へと運び込んだ。



「ふむ・・・」

システィアナが手早く用意してくれたベッドに
寝かされた女性を見下ろしながら僕は軽く唸った。
それを聞きつけてか、傍によって来たシスティアナだが、
彼女は女性を改めて見ると、怪訝な表情をした。
僕はその横顔を眺めてふっと複雑な笑みを浮かべた。

「システィも気付いたかい?」

だがしかし、システィアナは僕の言葉に
軽く小首を傾げて眠っている女性の顔を見つめては唸っているのみだった。
・・・さしずめ、何かおかしいことはわかっても
何がおかしいのか、そこがわからないといった風情だろう。
故に、僕がその彼女の疑問を取り払ってやることにした。

「彼女は・・・ホムンクルスだよ。キミと同じ、ね」

しかも正式な「契約」を結んでいないことを告げると、
システィアナの顔色がさっと青くなるのが分かった。

「じゃ・・・じゃあこの女性は・・・」

喘ぐように呟くシスティアナに僕は黙って頷いた。

「生まれて間もないか、さもなくば契約者が死んだか。
どちらにしろ、このまま放置しておけば彼女は間違いなく死ぬ」

「・・・・・・」

ホムンクルスというのは形態やメンタリティ
(ただしこれは周囲の環境にも寄るが)は人間に酷似しているが、
ただ一つ違う点を上げるとするならば、
生命エネルギーとでも言うべきものの生産量が
常に消費量を下回っている、ということだろうか。

これは血液等の物理的なものではなく、
概念的な意味での生命体の活動動力である。
我々人間であれば生産量が消費量を下回ることはないため
気にする者など誰一人としていないが、
ホムンクルスの場合はそうはいかない。
補充の手段がない、もしくは失うことになれば
それはそのホムンクルスの遠からぬ死を意味する。

それを回避するための唯一の手段が
「契約」と「契約者の体組織を媒介としたエネルギー補給」である。

まぁ、その手順自体は至って簡単なものなのだけれども、
こういう行為が「教会」の人間をして
「異端」と言わしめた一つであろうことは想像に難くない。
・・・まぁ、彼女を拾ってしまった以上、
このまま彼女を見捨てることもできそうにないけれど。

僕はシスティアナに彼女の様子を見ているように言付けると
階下の調剤所へと降りて行った。
手早く機材を並べた僕は、システィアナに気付かれぬように
失敬してきた女性の髪の毛1本を焼いて灰にし、
調剤所の棚に並べてあった透明な液体で満たされた
親指ほどの小瓶を取り出すと
焼いた灰をその中に混ぜて軽く振り混ぜた。

ちなみに小瓶の中身だが、この中には錬金術の基礎である触媒溶液と
その中にほんの2、3滴ではあるが僕の血液が入っている。
ここに被契約者、つまりホムンクルスの体組織を加えて混ぜ合わせ、
これをホムンクルスに服用させることで「契約」は完了する。
今後はこの瓶の中身、つまり触媒溶液と僕の血液の合液を
月に一度ほどの間隔で服用させることで
「契約者の組織を媒介としたエネルギー補給」が行われるわけである。
まぁ、第3者から見ればおぞましさで眉をひそめそうではあるが
こうしなければ彼女たちの命に関わるため、
僕としては至って真面目に行っている行為なのである。

もっとも、自分が生き長らえるために
僕が自分の指を傷つけて血を取ってるなんて言ったら
それが例え2、3滴のことであろうと
大騒ぎするのは目に見えているので、
システィアナ本人にもこの事は伏せてはあるが。
とまれ、出来上がった「契約」の薬を
お湯で割ったワインに混ぜて僕は再び2階の女性の元へと戻った。

「あ、クーイ様・・・」

僕の顔を見てシスティアナがあからさまに安堵した表情を見せる。

「ぅ・・・」

僕がそんなシスティアナを安心させようと
彼女の小さな肩に手を置こうとした瞬間、
足元のソファーから小さなうめき声が聞こえた。
見ると女性がうっすらとだが、その目を開いていた。

「やぁ、気分はどうだい?」

僕は穏やかな声で女性にそう問い掛けたが
女性はきょとんとした表情で僕の顔を見上げていた。

「僕の名はクーイ。怪しい者じゃない・・・っていっても
信じられないかもしれないけど・・・
キミは僕の目の前で倒れたんだ。覚えているかい・・・?」

そう問い掛ける僕に女性はふるふると首を横に振る。

「ふむ・・・。まぁとりあえずこれを飲んで落ち着いて」

僕は女性の肩を抱いて上体を起き上がらせ、
手に持っていた薬入りのワインを手渡すと
女性はゆっくりと一口二口含み、
それからもゆっくりではあったがコップの中のワインを飲み干した。
すると間もなく、薬の効果かワインの効果か、
今まで人形を抱いているかのように冷たかった彼女の体が
徐々に熱を持っていくのを、僕は肩を抱いた腕越しに感じていた。
とりあえず契約は終了。これならもう大丈夫そうだ。
心配そうだったシスティアナを見上げて頷きを一つ送ると、
彼女もまた、まるで我が事のようにその表情をほころばせた。

「だいぶ落ち着いてきたようだね。
さっきも言ったけど、僕の名はクーイ。キミの名は?」

「・・・フィリーネ・・・」

そして改めて名を名乗り、彼女の名を問うと、
しばしの逡巡の後、小さな声で女性はそう呟いた。
彼女、フィリーネが自身の名前を告げたことで、
彼女が以前は誰かと契約していたことが分かった。
普通、彼女たちに名を贈るのは契約者からというのが慣わしだからだ。

そして彼女と話をしていくうちに、
表情こそ控えめなものの、口調も言語能力もしっかりしていて、
よい環境と契約者の元にいたことが分かる。
しかし、彼女の口から名前以外の
彼女に関する情報が出てくることはなかった。
正確には出すことが出来なかった、というべきか。

フィリーネはこの時点で名前以外の全ての記憶を失っていたのだ。

「ふむ・・・」

事態のややこしさに僕がさすがに唸っていると、
僕の背後からひしと視線が送られてきているのが
背中越しにでも感じることが出来た。
頭を巡らせてちらりと背後にいるシスティアナの表情を覗くと、
まるで子犬が必死におねだりをしているような、
そんな視線にぶつかった。

・・・言いたい事は分かる。
同じ存在である彼女に同情して、
彼女をここで引き取ってくれと言いたがってるのも分かる。
しかし僕の中で彼女を引き取ってもよいか逡巡しているのも事実で。

(分かってるからそんな目で見ないでくれよ・・・)
だが、そう胸中で呟いて目をそらした僕が再び視線をシスティアナの顔に戻し、
その瞳が泣きそうに潤んでいるのを見てしまった瞬間、
僕の敗北は至極あっさりと決定してしまった。
・・・弱いぞ、僕。

「・・・あのさ、フィリーネ」

「・・・?」

不意に問い掛けた僕に、フィリーネは軽く小首をかしげた。

「行くあてがないなら・・・、その、なんだ・・・
キミさえよければここで暮らさないか?」

「・・・いいんですか?」

僕の言葉にちょっと目を丸くして答えた辺り、
彼女自身もこれからの身の振り方に困っていたのかもしれないが、
ともかく僕はそんな彼女に微笑んで頷いた。

「もし記憶が戻ったなら、それはそのとき考えればいい。
今は僕らの新しい家族として、キミを歓迎するよ」

そうして僕が差し出した手を彼女の白い手は
一瞬の躊躇は見せたものの、軽く握り返してきた。



それから一週間ほどの後、店の中で動く人間の数が
数日前と比べて約1.5倍に膨れ上がった。
・・・いや、今まで僕とシスティアナだけのところに
フィリーネが加わったって話なんだけどね。

何もせずにいることを気まずく感じたのか
店のことを手伝わせて欲しいというフィリーネに
試しに手伝ってもらったところ、
意外とお客受けがいい事がわかった。

長い銀髪とはちきれそうな元気の篭った銀色の瞳をきらめかせ、
いつも溌剌とした笑顔のシスティアナに対し、
肩のところで揃えた紅茶色の髪と落ち着いた光をたたえる氷青色眼を持つ
フィリーネは物静かで楚々とした印象の笑顔で
新たな女性店員の様子を見に来た男性諸氏の心を掴んだらしい。
我が店の新たな看板娘の誕生というわけだ。

・・・帰り際に密かに僕に向けられた彼らの視線には
既に殺気すら混じっていたが。
・・・別に彼女がここにいるのは僕のせいじゃないのに・・・



コンコンッ

その日の夜も更けた真夜中といってもいい時間、
僕の部屋に遠慮がちなノックの音が響いた。
もう二人とも寝たはずと思い込んでた僕は
訝しがりながらも読みかけていた本を裏返して答えると、
静かに扉を開けて入って来たのはフィリーナだった。
その手には湯気を立てるカップの乗った盆を携えていた。

「・・・クーイさん、お茶でもいかがですか?」

遠慮がちにそう問い掛けて僕の机にカップを置くフィリーナ。

「・・・読書中でしたのね」

少し申し訳なさそうに呟いたフィリーナに
僕は「構わないよ」と笑いかけた。

「何か僕に話したいことがあってきたんだろう?」

そして少し悪戯っぽい表情でそういうと、
フィリーナは少し目を丸くした。

「どうして分かったんですか?」

「そりゃあ、フィが夜更けに男の部屋に用もないのに
のこのこやってくるような女の子には見えないからさ」

僕の物言いにフィリーナはくすりと笑いを漏らすと、
床に転がしてあった大きなクッションにぽすっと腰をおろした。

「・・・数日前に夢を見たんです」

フィリーナが言い出すのを待って僕が口を閉ざしていると、
入れてくれた紅茶が少し冷めそうになったころ、
フィリーナはポツリとそう呟いた。

「夢?」

おうむ返しに問う僕にフィリーナはこくりと頷く。

「・・・私の目の前にお爺さんがいるんです。
でもそのお爺さんはとても弱々しくて・・・
私の頭を撫でながら泣いていたんです。
そしてこう言うんです。
『創りしモノとはいえ、お前を置いて逝くのは辛い』って」

「・・・・・・」

きっとこの数日間言うか言うまいか悩んだのだろう。
語り終えたフィリーナはそのまま俯いて黙りこくってしまった。

ふむ、夢というには具体的過ぎるな。
・・・おそらくは過去の記憶が夢という形で顕現したか。
だとすると、その老人が「契約者」で、おそらくその老人は・・・

僕はいつしかそんなフィリーナの前にしゃがみこみ、
彼女の頭を胸に抱き寄せて撫でていた。
おそらく彼女の「契約者」もそうしたであろうように。

「・・・クーイさん?」

さすがに少し驚いた様子のフィリーナだったが、
僕はそんな彼女にはお構い無しにその頭を撫で続けた。
フィリーナもそれに抗うことなく頭を僕に預けていた。

「そのお爺さんにとってキミはとても大切な人だったんだろうね」

そして僕がそう呟くと、フィリーナも「はい」とだけ呟いて
僕の胸の中で微かに頷いた。

「とっても優しくて暖かい感じの人でした。
そうですね、クーイさんにちょっと似てるかもしれません」

「それは僕が老成しているということかな?」

微妙に核心を突くフィリーナに焦った僕が冗談めかして言うと、
フィリーナはクスクスと笑いを漏らして
「いいえ」と首を横に振った。

「この夢、とても不思議なんです。
私はこの人の顔に覚えがないのですけど、
夢で見たとき、懐かしさで涙が出そうになってしまいました」

「・・・・・・」

「クーイさん。クーイさんはひょっとして私のことを
何かご存知なんじゃないですか?」

不意にそう問い掛けてきたフィリーナに、
僕は不覚にも彼女の頭を抱いたままびくりと体を震わせてしまった。
僕の腕から頭を引っぺがしたフィリーナは
そんな僕に優しげな視線で微笑した。

「・・・クーイさんは嘘が下手ですね」

憮然としてふいと横を向いてしまった僕に、
だがしかしフィリーナは真摯な瞳を向けてきた。

「・・・教えてください。私が誰なのか」

・・・仕方ないな。

ここでシラを切っても埒がないと判断した僕は
本当に仕方なくではあるが、僕の知る限りの彼女を話して聞かせた。
つまり、彼女がホムンクルスであること。
錬金術がどういうものでホムンクルスがどういうものか。
恐らくその老人が元の「契約者」でもう生きてはいないだろうこと。
死にかけていたフィリーナを僕が新たに「契約」することで
その命を繋ぎ止めることが出来たこと。
ついでにシスティアナもまたホムンクルスであること等々。

「・・・・・・はぁ」

僕の長い話を聞き終わったフィリーナはしばらくの沈黙の後、
肺にたまった空気を押し出すかのように息を吐いた。

「・・・驚いたかい?」

「・・・はい」

気遣わしげに問う僕にフィリーナは呆けたように頷く。
まぁ、それも仕方ないだろう・・・
しかしそんな僕の思いとは裏腹に、
フィリーナは「よしっ」と呟くと両手で自分の両頬を
ぱちんっと挟み込んだ。

「・・・フィリーナ?」

訝しげに問い掛ける僕にフィリーナは「もう大丈夫です」と微笑んだ。
そして僕に改めて真摯な視線を向ける。

「クーイさん。私たちは人間社会におけるいわば禁忌なんですね?」

「・・・それは・・・」

いきなり自らの存在を否定することを言い出したフィリーナに
さすがの僕も少し言いよどむ。

「でもクーイさんはシスティも私も守ってくださいますよね?」

「うん、必ず」

しかし次の質問に、僕はよどむことなく首を縦に振る。

「キミたちのことはこの身に変えても守る・・・と言いたい所だけど、
この身に不自由があるとそれは即ちキミ達の命にも関わるからね。
だから僕は、キミ達も僕自身も命がけで守ってみせる」

僕の言葉にフィリーナは微笑を浮かべた。

「・・・システィが貴方をいつまでも
「クーイ様」と呼ぶ訳が分かった気がします」

「・・・?」

そしてフィリーナは不意に顔を近づけると
僕の頬に軽く唇で触れていった。

「・・・!?」

「・・・これが私からの「契約」の証です。
今後ともよろしくお願いしますね、ご主人様(マイ・マスター)」

フィリーナははにかんだ表情でそういうと、
慌しく立ち上がって僕の部屋を出て行った。

「・・・・・・」

あまりの不意打ちに呆然とする僕に、
部屋の扉が再び開き、フィリーナが首だけをひょこっと出した。

「そうそう、言い忘れてました。
・・・お休みなさい、クーイ『様』」

言うだけ言うと、フィリーナは再び扉を閉じた。
一人部屋に残された僕は、まだ暖かくくすぐったい
感触の残る頬を掻きながら苦笑交じりに一人ごちた。

「・・・僕は「様」なんて呼ばれるほど偉くはないよ」


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