ザン・・・ザァン・・・
海原と大空の間を流れる風が少年の頬を撫でる。
風の愛撫を受けるがままにしている少年の表情は
剽悍にして鋭く、ある種の威厳のようなものを漂わせていた。
今少年が立っているのは海の上、
正確には海上を滑るように往く船の上である。
白地の貫頭衣に黒地の短衣、
黒地のズボンといういでたちの少年は
甲板で動き回る屈強な男たちに向かって
甲板を見下ろせる位置からきびきびと指示を飛ばし、
男たちもまた彼の指示に良く従っているようであった。
「船長、いい波ですねぇ」
傍らを通り過ぎる際に陽気に話す男に
少年もまた笑みを浮かべて答えた。
「ああ、いい波だ。たまにはこんな静かな航海も悪く・・・」
少年の言葉がいい終わるよりも早く、
キャビンから甲板へと続く扉がバァンと
音を立てて激しく開かれた。
「な、なんだ?」
流石に呆気に取られる少年。
その視線の先に立つのは身体中の至る所に
包帯やらなにやら治療の後が見られる一人の少女。
少女もまた少年の顔を見上げていた。
ただし、少女の表情は少年のそれとは違い
顔を怒りで真っ赤に染め、
まるで射殺せそうな視線で少年を睨み付けていた。
「なんだ、あんたか。あんまり脅かすなよ」
少年はやれやれとばかりに肩を竦める。
「な、な・・・」
「な・・・?」
「何だじゃないわよ、このトーヘンボクーーーッ!!」
波の音にも風の音にも負けない大音声に
少年は思わす顔をしかめる。
見ると彼女のそばにいた男たちは
耳を両手で押さえて目を丸くしていた。
「やれやれ・・・よっと」
困ったように頭を掻いた少年は目の前の手すりに手をかけると
一息で飛び越えて少女の目の前へと降り立った。
「・・・っ!?」
少年が降り立つよりも早く、
少女は軽やかに後ろに飛んで距離を空ける。
「あんたが何を警戒してるのかは知らないが・・・
命を助けた人間にトーヘンボク呼ばわりされる覚えはないんだが」
「うっ、ま、まぁ、それには感謝してる・・・ケド」
少年の言葉に一瞬たじろぐ表情を見せた少女だが、
すぐに元の怒りの表情を取り戻す。
「で、でもっ! それにしたって女の子の服剥ぐってどういうことよ!」
「・・・・?」
そういわれて少年は少女の服に目を落とす。
今少女が身に付けているのは白いシャツのみ、
それも男物で腕を巻き上げており、
シャツの裾から伸びる白く長い足が眩しい。
が、そこにさしたる色気を感じないのは
身体からはちきれんばかりの快活さゆえだろうか。
「・・・あぁ」
そこで少年は納得したような声とともに頷いた。
「確かにあんたを寝かせてたのは俺の部屋だが
あんたの服を着替えさせたのは俺じゃないぜ」
「・・・へ?」
少女の呆気にとられたような声を聞いて、
少年はくっくっと喉の奥で笑う。
「流石にそりゃああんたが困ると思ってな。
海水に濡れた服を着替えさせたのは、御歳63のうちの船医様だ」
「う・・・」
「例え爺様でも野郎に服を剥ぎ取らせたのは悪かった。
その点に関しては詫びよう。
ただ、この船には野郎しかいなくてね。仕方なかったのさ」
肩を竦めて少し申し訳なさそうに言う少年に、
少女はため息を一つ吐いた。
「・・・はぁ、それについてはもういいわ。
命を助けられたのは確かだものね。ありがとう」
そういって少女は少年に笑いかけた。
その笑顔は先ほどとはうってかわって涼やかで、
どうやら気持ちの切り替えの早い少女らしかった。
「そういえば、まだ名前も名乗ってなかったわね。
私の名前はエスカ=フルミナ。改めて、助けてくれてアリガト」
「俺はユゥラ=ロジャー。一応この船、ヴィルマーク号の船長だ」
エスカと名乗った少女が差し出した手を
ユゥラと名乗った少年が握り返す。
が、ここでエスカは軽く首をかしげる。
「ユゥラ=ロジャー・・・どこかで聞いたような・・・」
「ん? まぁ、自分で言うのもなんだが、
最近は俺の名前も金持ち連中には売れてきたらしいからな」
相変わらず首をかしげたままのエスカに
何かを思い出したかのように少し皮肉げな視線をして
喉の奥でくくっと笑うユゥラ。
「売れて・・・って、貴族相手の交易でもやってるの?」
「・・・まさか。逆さ」
ユゥラは、何が可笑しいのか、
笑いを堪えるように顔を片手で覆い、
もう一方の手で上を指差した。
「・・・逆・・・?」
その指の先にあったのはこの船で最も高い帆柱の先端。
そこに翻る黒地に白い髑髏が描かれた旗。
それを見たエスカは驚きに声も出ない。
「ジョ・・・髑髏の海賊旗《ジョリー・ロジャー》・・・。
じゃああんたが・・・『荒れ狂う海神』!?」
「いや、そりゃあ俺の親父だ。
『荒れ狂う海神』ルドヴィーク=ロジャーと
『閃紅の戦女神』アマリエの息子、それが俺だ」
二人共に、海を少しでも知るものならば
知らぬもののないほど名の通った海賊であり、
それを事も無げに話す少年をエスカは思わず凝視した。
「そんな・・・ことって・・・・」
呆けたようにそう呟くエスカだが、
見るとその身体も前後左右に揺れている。
「・・・あ・・・れ・・・?」
「・・・っと!?」
まるで糸が切れたようにふらりと倒れたエスカの
慌ててその体をユゥラは抱きとめた。
その顔には苦笑に近いものが浮かんでいた。
「やれやれ、傷もまだいえてないのに無茶するから・・・」
ユゥラはそう呟くと、エスカの足を抱えて
その身体を自分の肩に担ぎ上げると
船室へと続く扉のノブに手をかけた。
そこに妙に楽しげな船員の声がかけられる。
「おや船長、お楽しみですかい?」
「バーロー。つまらねぇことぬかしてねぇで後は任せたからな。
予定とは違っちまうがキライの街に進路を取ってくれ。
後のことはそこに寄航してから考える」
「アイ・アイ・サー」
ユゥラはそんな船員たちに笑いつつ指示を与え、
周囲の船員たちがそれに返答するのを確認してから
扉の中へと消えていった。
「ん・・・」
再びエスカが目覚めたとき、
その目に映ったのは先ほど目覚めたときと同じ
木造の屋根だった。
身体を寝台から起き上がらせて窓へと視線を向けると
そこには緩やかなカーブを描く水平線とそこで隔たれた青空。
どうやら先ほど起き上がったときから
さほどの時間は経ってはいないようであった。
「うー・・・私、気をうしな・・・っちゃったのかな・・・」
そう呟いて軽くかぶりを振る。
そしてふと気を抜いた瞬間に頭をよぎったのは
先ほどユゥラと名乗った少年との会話。
「ユゥラ=ロジャー・・・海賊だなんて・・・」
それも生きながらにして既に伝説の域にまで達しつつある
2人の海賊を両親にもつ少年。
「何で・・・私を助けたんだろ・・・」
そう、エスカは助けられた。
ここにいる理由はわからないが、
ここにいる原因は今でもはっきりと思い出せる。
街と街をつないで人を運ぶ定期便。
エスカもその船に客として乗り込み小さな船旅気分を満喫していた。
しかしその旅程半ばで襲い掛かる海賊。
遠距離からの砲撃で足を止められ
近づくが早いか瞬く間に乗り移って白刃を閃かせた。
その白刃の前には男も女も、子供も老人も関係なかった。
エスカ自身、多少は腕に覚えがあったので
応戦する船員に混じって海賊たちと切り結んだが
所詮は多勢に無勢、
瞬く間に全身傷だらけになったエスカは
船上から海中へと自らの意思とは関係なく
身を投じる羽目になったのであった。
(私はきっと・・・運がよかったのね)
海賊たちの刃にかかることもなく
鮫の餌になることも、溺れ死ぬこともなく、
今エスカは清潔なシーツの上でその身を横たえている。
その事実に素直に喜ぶことができずに
項垂れていると扉がノックされる音が耳に届いた。
「あ、は、はい、どうぞ!」
思わず反射的に答えてしまったエスカだが、
その次の瞬間、この部屋に入ってくるのが
海賊なのだと思い至って慌ててベッドから飛び出ると、
壁に装飾として飾られていた槍を取り外して
油断なく構えた。
「・・・・・・」
が、いつまで経っても扉が開く気配がない。
「・・・・・・?」
怪訝な表情をするエスカに、
しばらくの後、扉の外から少し困ったふうな
少年の声が届いてきた。
「・・・すまないが、開けてもらえると嬉しい」
そういわれて右手の槍をいつでも振えるような状態にして
エスカは慎重にドアを開けた。
「や、すまないね」
するとそこには左手に料理の盛られた盆を持ち、
右手になにやら液体の入ったビンとグラスを持った
ユゥラがそこにいた。
「え・・・?」
「腹、減ってるだろ。
海に落ちてからどれだけ流されたのかは知らないが、
拾い上げてからもずいぶん眠ってたしな」
「え・・・あ・・・う、うん」
いまだにこの事態が飲み込めないふうにしどろもどろなエスカ。
そんなエスカを気にした風もなく
てきぱきと自分の持ち込んだ料理をテーブルに並べると
エスカに近い位置のイスを引いて手で招いた。
「ほら、んなとこに突っ立ってないぜ食べようぜ。
元より大したことのない飯だが、冷めるとさらに不味くなるからな」
そして少し悪戯っぽい表情でそう笑いかけるユゥラ。
その視線がエスカの右手に向いて少年はかすかに首を傾げる。
「ときに、何でそんなもん構えてるんだ?」
「えっ!? ア、アハハ・・・ちょ、ちょっと・・・ね」
はっとそれに気づいたエスカは慌ててそれを背後に隠すが
いくら長さの短い短槍とはいえ、
柄の部分が背中からにょっきりと生えてくるのだけは避けえず、
エスカは少々バツの悪い思いをしながらそれを壁に戻すのだった。
「ねぇ船長さん、一つ聞いていい?」
食事の途中で不意にそう尋ねるエスカだが、
ユゥラは一瞬何のことやら分からずに目をパチクリさせる。
「ああ、そんな呼び方するから誰のことかと思った。
ユゥラでかまわねぇよ。船長さんなんてお上品なもんじゃないしな。
・・・で、なんだい?」
「この船は船長が自ら食事を配って回るの?」
エスカの問いに一瞬目を丸くしたユゥラは
その直後ぷっと吹き出すのだった。
「まぁなんだ。俺が一番見た目でウケがいいだろうからだとさ」
「・・・? なにそれ」
きょとんとした様子のエスカにユゥラは笑いながら説明を続ける。
「だからさ、うちの船の野郎どもは結構強面が多いんだよな。
後はガタイがでかかったりな。
そんなわけで怪我人の女の子を怖がらせちゃいけないからってんで
こっちに小間使いのお鉢が回ってきたってわけさ」
「は、はぁ・・・」
そういいながら相変わらず可笑しそうに笑うユゥラと
ここには姿を現さなかったこの船の乗員たちに
ただただエスカは戸惑っていた。
(・・・おかしな人たち)
少なくともこの人たちは自分が抱いていた
海賊のイメージとはずいぶん違う。
ましてやあの船を襲った海賊たちとは・・・
「さて、じゃあ今度はこっちからの質問だ」
一瞬思考に陥りかけたエスカを
そう問いかけるユゥラの声が遮った。
「なんだってあんたみたいな女の子が
全身刀傷だらけで海の上を流れてたんだ?
ちょっとした喧嘩とかそんな傷じゃなかったって
ドクが・・・ああ、うちの船医の通り名な。
ドクの奴も呆れてたぞ」
そんなユゥラの言葉にエスカは顔を俯かせると
ここまでのいきさつを語った。
定期便に乗っていたこと、それが海賊に襲われたこと、
満身創痍の末に海に落ち、この船に拾われたこと。
その話を聞いていたユゥラは「フゥム」と一つ唸ると
「その定期船ってぇのは、サンタナとキルシェを結ぶ
航路の奴じゃなかったかい?」
その言葉に目を見開くエスカ。
「・・・な、何で知ってるの!?」
その言葉にユゥラは「ちっ」と舌を打ち、
エスカから目を逸らして言いにくそうに話し出した。
「昨日、その付近でボロボロになって漂流している船を見つけた。
よく沈まなかったと不思議に思ったほどさ。
最近この付近で嵐なんてなかったから難破船とは思えなかったが
一応部下に中を調査させたんだ」
「・・・・・・」
「・・・酷いもんだった。女子供も容赦なしに皆殺し、
殺すだけ殺して金目のものも奪うだけ奪いつくしたって風情だったよ」
「・・・もういい、やめて」
言葉の途中から両手で耳をふさいでしまったエスカに
だがユゥラは、「もう一つだけ聞かせてくれ」と続けた。
「その海賊に特徴はあったか?
頭でも船でも旗でもいい。何か覚えていることはないか?」
その言葉にエスカは俯いたまま沈黙を続け、
やがてポツリと一言を漏らした。
「・・・旗・・・赤地に黒い鳥が描かれてた・・・」
エスカの呟きにしばらく黙考したユゥラであったが
ややあって汚いものでも見たかのように口の端を歪めた。
「ジャンゴ・・・あのクソ野郎か・・・」
まるで吐き捨てるようなその台詞に、
エスカははたと顔を上げる。
「・・・知ってるの?」
すがるようなエスカに、
だがユゥラは優しげですらある笑顔で
テーブルの上のエスカの手に自分の手を重ねた。
「それはお前が心配することじゃない。
せっかく助かった命なんだ。海賊なんかに関わろうとするな。
無論俺たちも含めて、だ」
「・・・なんで? ユゥラもその海賊が許せないって顔してる。
おんなじ海賊なんでしょ?」
信じられないというふうにエスカが呟くと、
ユゥラは手をエスカから離すとイスから立ち上がった。
「『弱いものから奪うな』それが親父のポリシーであり
俺たち一家の暗黙のルールだ。
俺もそのポリシーとそんな親父に誇りを持ってる。
富豪の商船を足止めしてちぃとばかしの金を戴くことはあっても
無力化した敵に切りつけたことはねぇし
ましてやまともな武装もない定期船を襲って
女子供を皆殺しなんてありえねぇ」
そこでユゥラは言葉をいったん切り、
視線を窓の外へと向けた。
その目には剣呑な光が宿っており、
横顔を見つめるエスカにも
彼がよほどの怒りを抱いているのは見て取れた。
「それを奴はこの俺のテリトリーでそれをやりやがった。
ロジャー一家へ喧嘩を吹っかけやがったわけだ。
・・・上等だ。このロジャー一家の若頭、
ユゥラ様が買ってやろうじゃねぇか」
「・・・・・・」
そこまで言い切って一つ大きな息を吐いたユゥラは
エスカのほうに向き直ると少し照れくさげに笑った。
「ま、そんなわけだ。
奴には俺がきっちり詫び入れさせてやるから
あんたは元々の目的を果たすといい」
ユゥラのその言葉に、しかしエスカは首を横に振った。
「お願い、私も連れて行って。
その場面を私にも見届けさせて」
そういって真っ向からユゥラを見据えるエスカに、
ユゥラは一つ短いため息を吐くと、
何かを諦めたような表情で後頭部を掻いた。
「・・・あんたならそう言う様な気がしたんだ。
でもそれでいいのか?あいつに止めをくれてやったとしても
決して気持ちが晴れるもんじゃないんだぜ?」
「うん、それはわかってる・・・つもり。
でも、見届けたいの、結末を」
どうあっても意思を曲げそうにはないエスカに、
ユゥラはもう一度ため息を吐くとやや投げやりに呟いた。
「・・・いいだろう。ただし条件がある」
「・・・?」
首を傾げるエスカに、今度はユゥラが
エスカの瞳を真っ向から見据える。
「それはお前が俺たちの一家に加わること。
あいにく海賊船ってのはカタギの人間を
いつまでも客として扱うほどの余裕はなくてね。
この船に乗り続けるからにはこの船の乗員として働いてもらう」
「・・・つまりそれって」
「お前も海賊になれ、といってるのさ」
「・・・・・・」
ユゥラの言葉に黙って考え込んでしまうエスカ。
そしてしばらくの後に顔を上げたエスカは
その首を力強く縦に振ったのだった。
「・・・いいわ。その話、乗ったわ」
「・・・後悔しないな?」
「もしかしたら、いつかするときが来るかもしれない。
でも・・・今ここで普通の生活に戻ったりしたら
間違いなく後悔する」
「・・・・・・」
「するかもしれない後悔を恐れて、今を後悔したくない」
エスカの真摯な視線を真っ向方受け止めていたユゥラは
その言葉を聴くと口元にふっと軽い笑みを浮かべ、
エスカに向かって右手を差し出すと、エスカもそれを握り返した。
「いいだろう。今からお前は俺たちの仲間だ。
後でこの船の連中に紹介・・・」
ドカン!バタバタバタッ!
紹介してやる。といいかけたユゥラだったが、
それはドアの開く大音響とそれに続いて
何かが大量に部屋に転がり込んできた音にかき消された。
流石に呆気に取られたユゥラとエスカの見つめる視線の先には
ユゥラ曰くの『強面の』『ガタイのでかい』男たちが
一様に愛想笑いを浮かべて場を誤魔化そうとしていた。
「・・・してやる必要はどうやらないらしいな」
「・・・そ、そうみたいね」
心なしか引きつった笑いを浮かべるエスカに、
こちらは優しげにすら見える笑みを浮かべて
デスクに立てかけてあった剣を手に取り
それを静かに抜き放つユゥラ。
「さて・・・俺はキライの街へ進路を取れとは言ったが
そこで聞き耳を立てていろなんて命令はしてねぇぞ」
「え・・・えっへへへ・・・」
あくまで静かな笑顔のまま話すユゥラ。
しかしその目が笑っていないことに海賊たちも気づいているのか
中には冷や汗すら浮かばせながら誤魔化し笑いを続ける。
「これで少しでも進路がずれてたりしたら
てめぇらまとめて鮫の餌にしてやるぞ!
さっさと持ち場に戻りやがれ、コラァッ!」
「ア、アイ・アイ・サーーーッ!!」
そして目を見開いて一喝するユゥラに
海賊たちはまさに蜘蛛の子を散らすように
部屋を飛び出していったのだった。
「まったく、しょーがねぇやつらだな」
「ふふっ」
剣を鞘に収めたユゥラは今度はエスカのほうに向き直った。
「紹介の手間は省けたが、面識がないも同然なのは変わらないからな。
その辺回って適当に挨拶でもしてきな。
で、できるだけ早く船の内部を覚えて自分の仕事も探してくるんだ。
黙ってても誰も仕事はくれねぇぞ」
「アイ・アイ・サーっ」
ユゥラの言葉にエスカは極上の笑顔で
敬礼と共に返事を返すと軽やかな足取りで部屋を出て行った。
一人部屋に残されたユゥラは自分のグラスに残っていた
既にぬるくなってしまったワインを不味そうにすすると
ため息を一つ吐いた。
「海賊は敬礼なんてしねぇよ、バーカ。
やれやれ親父、俺はなんか面倒なもんを拾っちまったらしいぜ」
吉か凶か。まるで潮のようにその正体の分からない、
しかし確実なるその変化を胸に感じながら
ユゥラはここにはいない自分たちの頭領に
新たな仲間の誕生を告げたのだった。
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