5.模型化、その実践

 4章で、この時代に主に東海道本線で急行に使用されていたと思われる車両の解説を一通り行った。繰言になるが、あくまで私はNゲージでこの時代の車両を作ることに主眼を置いているのであって、実車のデータベースとして使えるレベルだとは思っていない。この章では、まさにその、模型として具現化するにあたって私が今まで感じてきたこと、習得してきた技術(大層なものではないが)などを書き連ねていこうと思う。
 現在、再構築中ということで、少々ページ構成がややこしくなると思うが、御容赦いただきたい。

 零.製品一覧

 壱.「青大将」について

 弐.Aロネ・ABロネ

 参.Bロネ

 四.Cロネ

↓以下、再構成前↓

 零.完成品市場

 もともと華がないこの種の製品を完成品として発売したところで大した売れ行きも期待できないであろうということか、当然のごとく完成品は少ない。上のリストでもあるとおり、KATOが43系・44系客車と10系客車を、有井(マイクロエース)が10系客車を、そしてハセガワが旧ナカセイキットを完成品という形態で出しているのみである。この中ではやはりKATOが群を抜いて完成度は高い。マイクロエースの10系客車に関しては、形態的には悪くないものの表記や塗装に少々…といった感じであろうか。そして、ハセガワの「完成品」だが…。いや、出してくれただけで感謝感激雨あられ、なのだが、どうせならキットのまま出して欲しかった、と思ったのはきっと私だけではないであろう。中には首を傾げたくなるような製品も混ざっていた(ベンチレーターが歪んで接着されているなど)。まぁ、どの道自分で手を加えるからまったくかまわないというか、結局のところは再販してくださっただけでも御の字ではあるのだが。そんなこんなで、ハセガワの「完成品」を「キット」の状態に戻すコツらしきものをひとつだけ。基本的に接着されている部分をカッターナイフ等でこじってバラしていくのが一番いいのだが、その際にカッターで筋を入れた部分にシンナー(プララッカー用、グンゼなど)を流してやるとうまくはがれてくれる。ただし、使うのはあくまでプララッカー用で、まかり間違っても金属ラッカー用などは使わないように。プラが融けてしまう。また、浸透力ではエナメル系シンナーがぴか一で、私も実際に使ったこともあるのだが、あまりに強力すぎてもとのプラの地まで侵してしまうという割と洒落にならない事態になるので使わないほうがいい。この方法に限ったことではないが、基本的にここに書いてある工法を使って製品がおじゃんになっても当方は責任を取れないので、あくまで自己責任でどうぞ。私が今までやってきた中での経験で物を言ってるわけであって、これが正解というわけではない。中には邪道といわれるようなものもあるかもしれない。その辺はあらかじめご了承いただきたい。

 弌.グリーンマックス

 考えてみたら、現状ではここしかプラキットというのは出していないのかと思うと少々寂しくもある。といっても、歴史をさかのぼってみても、GMの他ではナカセイくらいしかなかったが。そんなわけで21世紀もがんばって欲しい、というか、かなりがんばってもらわないと困るメーカー筆頭格であろう。
 いまさらGMのキットの組み方なんて書いてもしょうがないといえばしょうがないが、一応私の組み方を簡単に記しておくことにする。基本的に私は瞬間接着剤を用いない。3種類のプラ用接着剤を用意して、それらを使って組んでいる。まずは、普通のプラ用接着剤(タミヤセメント等)、二つ目が低粘度プラ用接着剤(金属ラッカー系シンナーや「サラサラタイプ」のプラ用接着剤等)、と、ここまでは普通だが三つ目が少し特殊な(?)代物で、普通タイプのプラ用接着剤に不要になったランナー等を放り込んでプラスティック成分を飽和させた「超高粘度タイププラ用接着剤」である。GMの平妻客車キットは側板と妻板の合いがあまりよくないものも少なくなく、そういったもの同士の接着にはこの超高粘度タイプが割と有用だったりする。ちなみに、この超高粘度タイプ、私のオリジナルではなく、昔Nゲージブックか何かの記事で読んだものである。
 とりあえず、側板と妻板を組んで箱にした後、屋根を接着する、というのがいつもの方法であるが、この屋根と車体の接着には、まず普通タイプないしは高粘度タイプで裏から接着、それが乾かないうちに車体と屋根の隙間に低粘度タイプを流し込み、セロテープやマスキングテープ等で隙間が開かないように固定、1日ほど放置して各部を修正、というおおむねこのような工程をとっている。

 弐.金属キット 総論

 半田付けの功罪

 のっけから偏見入りまくりだが、個人的にはやはり瞬間接着剤よりも半田付けのほうが優れていると思う。私は金属部分に関してはほぼすべて半田で組むようにしている(除くホワイトメタル部分)。ここで軽く私の思う「半田付けの利点・欠点」を述べてみようと思う。
利点
1.何より丈夫
2.取り扱いが楽
3.ある程度やり直しがきく
4.換気の必要がない(?)
5.保管場所を選ばない
6.手まで接着したりしない

欠点
1.なんとなくとっつきにくい
2.火傷する
3.フラックスという危険物を扱わざるを得ない
4.板物の場合、反る
5.さびる
6.大抵の場合、結局別途瞬接等が入用となる
7.瞬接前提のコンバージョンキットの場合、かえって半田だと組みにくい

 こんなところだろうか。おのおのの項目を見ていくと、まず利点の1に関しては異論はなかろう。無論、銀ロウ付けなど、半田よりも強力な方法はあるが、そんなものはNゲージには関係ないのでこの際無視して、瞬接と比べた場合、これはやはりどうみても半田の方が有利であろう。もちろん、瞬接でも補強を入れたり、接着の前に接着面をよく磨くとか、エポキシ系接着剤を併用するとかして、実用上問題ないレベルの強度は確保は出来る。ただ、適当にやってしまうと、瞬接の場合はちょっとした衝撃でぽろっといってしまうことが割とある。その点、半田付けは割とルーズでもいけるというか、フラックス流しておけば流れてくれるので余り気を使わなくって、なれると非常に楽である。その辺の扱いやすさが、2の扱いやすい、という項目にもなるわけである。現実問題として半田前提のキットを瞬接で組むのは少々困難だが、瞬接前提となっているキットを半田で組めないということはまずありえない(無論、金属部分に限っての話であるが)。旧型電機のデッキやある程度の削りだしが必要となる先頭車両のおでこなど、半田でないと厳しい部分というのも少なくない。
 続いて3だが、半田のもうひとつの特徴として、再加熱すると融けて剥離が可能である、という点がよく上げられる。これによって、多少の失敗ならある程度までは簡単にやり直すことが出来るのであるが、ただ注意したいのは、Nゲージの金属キットというのは板厚も余り厚くないものが多く、非常に歪んだりしやすいという点であり、いくらやり直しがきくからといっても油断は禁物である。特に、内張と外張の半田付けなどは細心の注意を払って行いたいものである。やり直しがきくといっても、やり直しはない方がいいに決まっているのだから。
 私は北海道に住んでいるわけだが、言うまでもなく北海道の冬は寒い。そんな中、窓を開けたくないというのは、これは当然の感情であろう。然るに、瞬接を使うときはやはり窓を開けて換気しながら作業をしたいものである。そんなジレンマを解消するのにも半田ごては有用である。基本的に、瞬接ほど換気に気を使わなくってもいい、はずである。が、しかし、(?)をつけたことからもわかるように、実際は半田付けにおいても換気はした方がいい。何かというと、フラックスである。半田付けには欠かせないこの液体(Mach模型の塩化亜鉛溶液などでも同じである)、要するに半田が流れるようにするための薬品なわけであるが、それなりに毒性が強い薬品ゆえ、半田の熱で蒸発したフラックスのことを考えると換気はしたい。ただ、塩化亜鉛溶液の場合は換気しようがしまいが余り関係なさそうだが(塩化亜鉛自体は固体であり、蒸発するようなものではない)。この場合は、蒸発するものよりも手についたりするものの方に神経を尖らせておいた方がいい。
 うちでは瞬接の保管に関してきわめて無頓着(机上にほったらかし)なのだが、基本的に冷暗所(冷蔵庫など)に保存するように言われている。しかし、半田というのは基本的に保管場所を選ばない。常識的な環境において置けばいい。これも、利点といえば利点かもしれない。こんなものは利点といえるのかどうかは微妙だが。
 6に関してはギャグみたいな話ではあるが、割としゃれにならない。キットを組んでいるときに流しすぎていっしょに手までくっついた、というような経験は誰しも経験したことがあるのではなかろうか。こんな心配も、当然半田付けではない。これは、利点といえるのではないだろうか。

 他方、難点の方だが、半田付けをしたことがない人にとってはもはや1がすべてであろう。ご他聞に漏れず、私もそうであった。これに関しては、もう、「とりあえずやってみれ、簡単じゃけ。やってみなわからんて」としか言いようがない。本当に、思っている以上に半田付けは簡単なものである。はじめ、「半田を流す」ということを理解するまでに多少時間がかかるかもしれないが、この「半田を流す」という感覚さえ体得すればもらったも同然である。フラックスをつけたところに熱した半田を乗せたコテ先をあてる、そうするとそのフラックスがついている部分に沿って半田が「流れて」いく。ただそれだけのことなのだが、こればっかりは言葉で説明できるものではない。初めは流しすぎるとか、巧く流れないとかいったことも当然あるだろうが、慣れてくるとどの程度の量を流せばいいのかとか、どういう風にコテを当てればいいのかとかもおのずとわかってくるはずである。何事もそうであるが、細かい積み重ねこそ、上達への道である。やってみなきゃ、一生出来ない。それでもいいというのなら止めないが、習得しておいて損はない技術である。
 火傷に関しては、まぁ、半田の必要悪というか、こればっかりは仕方がないのであきらめるしかないであろう。極力、火傷しないように注意してやるほかしょうがない。カッターナイフも扱い方を誤れば怪我をする。それと同じことである。更に言うなら、Nゲージで使う半田ごてでする火傷なんてはっきり言って大したことない。慣れてきたら平然と小物パーツを手でつまんで半田付けなんてこともやるようになってくる。
 私は、初めて買ったはんだについてきた「ステンレス用フラックス」なるものをずっと使っているが、注意書きを見るとこの液体は強酸性ゆえ扱いには注意しろ云々と言ったことが書いてある。また、Mach模型などから発売されている塩化亜鉛溶液も、それなりに毒性があるものらしい。こういった「危険物」を扱わざるを得ない点も、半田付けのディスアドバンテージかもしれない。ちなみに、今までの経験上、酸性の液体と言うのは思っているほど危険ではない。目にさえ入らなければさほど大騒ぎするものではない。ただ、目に入ったときは全ての作業を中断してすぐに洗浄をしなければならない。余談だが、実際のところは酸よりもアルカリの方が怖いのである。まぁ、手についた分は後から模型といっしょに洗えばいい。
 そう、半田付けをした後は必ずその模型をすぐに洗わなければならないと言うのも割と面倒くさい点である。放っておくとフラックスによる作用で腐食が進み、最悪の場合穴が開く恐れもあるため(これが、欠点の5である)、この洗浄は欠かせない作業である。その時にいっしょに手についたフラックスも洗い流せば、多分大丈夫であろう。もっとも、塩化亜鉛溶液の場合はどうなのかというのは知らないが。
 何も考えずに、例えばコンバージョンキットの外張と内張と言ったある程度長い物同士を半田付けした場合、コテを当てた方向と逆側、つまり、普通は内張側から半田付けするので外側に向けて板が反ってしまう。これを防止するためには、板物の場合、まず中心部から半田付けし、そして、「何も考えずに半田付けすると外側に反る」と言うことを念頭に置きつつ、常に板がまっすぐになるように保持して半田付けしなければならない。このあたりの微妙な操作が、慣れるまで少々難しいかもしれない。
 半田で組む場合も、結局はプラ部分との接着などで瞬接などの接着剤が別途必要になることが少なくない。そのことを考えると、金属部分を組むためだけに半田を使うと言うのは確かに少々馬鹿らしい、と言う考え方も成り立たなくもない。そんな考えの元(かどうかは知らないが)、ほとんどのコンバージョンキット・及び結構な数のボディーキット・トータルキットは瞬接で組むことが前提となっている。基本的に瞬接前提のキットでも普通に半田でも組めるのだが、BONAのスユ43の雨樋など、少し半田では組みにくいかな、と思わせられる部分もある。まぁ、瞬接前提のキットなんだから半田じゃなく瞬接で組め、と言われればそれまでだし、私がここまで半田にこだわるのは瞬接が嫌いだから、と言うのも多分にある。まぁ、ありがちな「瞬接アレルギー」と言ってしまえばそれまでであり、「半田アレルギー」と同じことだろう。一方で、半田付けが出来ないと組めないキットがあるのも、また事実である。やはり、適材適所、キットに、素材にあった道具を自由自在に扱って組んでいかなければならない、ということであろう。

 その他、いくつか雑感

 金属キットを組むといえば、まぁ半田付け云々が良く語られるが、その他にも組んでいて気がついた点をいくつか。
 金属キットの多くは何かしら「曲げ」が必要なものが多い。内張の、床下を留めるための部分などが一般的だろう。多くの場合、筋彫りがなされていて曲げるのはたやすい構造となっているが、この筋彫り、「山折り」か「谷折り」を説明書を読んでちゃんと把握しておかないと痛い目にあう。一般的には筋が内側に来る折り方が多いが、中には同一キットの中でも折る向きが決まっていないものというのも少なからず存在する。一回間違った方向に折り曲げてしまうとポキっといってしまう事もあるので、説明書をよく読んだ上で注意して行いたい。
 また、筋が入っていない部分の折り曲げ(具体例をあげるとすればレイルロードのマロネ40妻板など)を行うには当然筋彫りが必要となるわけだが、この筋彫り、なかなか曲者で、結構深く掘らないと上手く曲がってくれない。少なくとも板厚の半分は掘らないと上手くいかないようだ。もちろん、彫り過ぎると穴が空いてしまうのでそこはほどほどにしなくてはいけないが。この筋彫りの話、なにも筋がないものだけに限った話ではなく、すでに筋彫りがなされている物の中にも彫りが甘かったりするものがあり、甘いまま曲げようとすると変な風に曲がって痛い目にあうこともある。彫りが十分かどうか、というのを見極めるのはなかなか簡単ではないが、おおむね同一メーカーのキットだと別製品でも彫りの甘さの度合いは似ているので、数を組んでいくうちに段々とつかめてくるものだと思う。
 そして、いよいよ組みあがったら塗装をするわけであるが、塗装の前に洗浄をしなければならない。普通のプラキットと違い金属キットの場合は中性洗剤で洗っただけでは不十分である。余談だが、たとえプラキットでも塗装の前には一度中性洗剤等で洗った方がいい。洗わなくても、割とちゃんと塗れるが、手の脂とか手垢とか加工中のカスとかが付いてて汚くなったり、最悪塗膜がはげたりする。不確定要素はなくしておくに限る。さて、話を元に戻すと、金属キットを塗装する前には、まず「洗浄」が欠かせない。一般的には酸洗い(代表的なものとしてはトイレ洗剤のサンポール)や専用の洗浄液(Machのブラスクリーナーなど)を使っての洗浄が薦められているが、私はクレンザーを歯ブラシにつけてごしごしこすって、そのあと中性洗剤で洗浄、クレンザーを洗い流す、という工法を取っている。一般的にはこのクレンザー洗浄と酸洗浄を併用する、ないしは酸洗浄のみ、というのをよく聞くが、今までやってきた中で、クレンザー洗浄のみで困ったことというのはない。もっとも、昔は酸洗いでやっていたが、それで困ったことと言うのも特になかったが。ただし、割と繊細なディテールを有するもの(蒸機や「ハイパーディテール」な車両など)の洗浄に関しては、確かにはブラシでごしごしというのは怖いかもしれない。私はそういったものを組まないので関係ないが。要するに、趣味の問題である。クレンザーで磨いてると、いかにも「綺麗にしている」「磨いている」という感触があって、なんとなく嬉しいから、というのが一番大きな理由かもしれない。ただ、地方在住の人間として、「世間一般として」余り一般的でないもの(クレンザーやサンポールに比べればMachのブラスクリーナーなんてとてもじゃないが一般的とはいえないであろう)というのは入手しにくいわけで、どうしてもサンポールやクレンザーに頼らざるを得ないのである。巷でよいと評判のMachブラスクリーナー、私も今度試してみようかと思いつつ、まだクレンザーが残ってるからこのままでいいか、というようなどうでもいいことを思いつつ、今日も今日とて歯ブラシにつけたクレンザーでがりがり磨いているわけである。
 さぁ、洗浄が終ったらいよいよ塗装に入るわけであるが、ここでもう一丁、面倒な下地処理がある。そう、プライマー処理である。今はMODELER'Sから缶スプレーで「強力金属用下地塗料」と銘打って「メタルプライマー」なる物が出ているものの、そんなものがなかった時代というのはMach模型から出ている「メタル用シールプライマー」や、篠原模型の「MDプライマー」等を使うのが一般的であった。否、今でもそっちの方が主流であろう。私も「缶スプレー」という気軽さに引かれてMODELER'Sのメタルプライマーを使ってみたものの…何か上手くいかなかった。メタルプライマーを塗った後、本塗装をしたらどういうわけか塗膜が見事にひび割れを起こしてくれたのである。ただ、雑誌の作例を見ている限りではそういう悪い話は見たことがないので単純に私の塗りが悪かっただけかもしれないが。Machや篠原の物は何と言ってもエアブラシ等が必要になる、もしくは筆塗りにならざるを得ない、という点が唯一にして最大の欠点、といえるのではないだろうか。その代わり物は確かである(篠原のものは、2液混合製ゆえ、面倒なので私は使ったことはないから詳しくは知らないが)。いや、物は確かというか、これももちろん塗り方を間違えばちゃんと機能してくれないが、適切な濃度で適切な量を塗布すればちゃんと機能してくれる。結局、MODELER'Sのプライマーもちゃんと塗ればいいのであろう。多分、私の技術がないだけである。精進しなければ…。なんせ、エアブラシがいらないわけで、もし、使いこなすことが出来ればかなり有力な「武器」になるわけだから。
 後は、プラキット等と同じ作業である。お疲れ様でした。

 参.金属キット 各論

 とりあえず、総論らしき物をたるたると述べてきたが、ここからは個別のキットについてもう少し突っ込んだ話をしていこうと思う。

コンバージョンキット

 この時代(「青大将が走った頃」)をモデるには欠かせない存在、それが各メーカーから出ているコンバージョンキットであろう。無論、主たる車両たちはおおむねGMかKATOから発売されている。然るに、「青大将」の脇役たり得る急行列車編成を組もうとしたとき、この2社の製品だけで組成できるこの時代の急行など恐らく一編成も無いだろう。そんなわけでコンバージョンキットを組むのは避けて通れないのであるが、2・3気がついた点を。総論で書いた事と被るが、一番注意したいのは何と言ってもプラ部分と金属部分の接着、特に屋根と車体の接着である。妻板と側板の接着はそうでもないのだが、屋根と車体の間はうっかりすると隙間が開いてしまうことがままある。普通、鉄道模型というのは上から眺めるアングルが多いのであり、この隙間があると非っ常に見苦しくなる。大抵のコンバージョンキットの説明書には書いてあるが、スペーサーを入れるなり何なりして強度確保とともに隙間が開かないように注意したい。この、屋根と車体の隙間は何もコンバージョンキットに限ったことではなく、普通のプラキットでも言える話なのだが、私の場合、プラキットの屋根と車体の接着の際には金属ラッカー系シンナーを用いて隙間なく接着するようにしているので、プラキットの場合は比較的神経質にならなくてもすんでいる。ただ、コンバージョンキットの場合はそういうわけにもいかないから特段の注意が必要となるわけである。
 コンバージョンキットは、内張と外張だけ、という内容のものが多い。要するに、内張と外張を張り合わせるのが主たる作業の一つとなるわけである。簡単なことなのだが、ここでミスすると終わりである。2枚の貼り合わせは特に慎重に行いたい。最近のキットではさほどでもないが、古めのキット(レイルロードなど)の中には2枚の合いが余りよくないものもある。このような場合は、できるだけ「ずれ」が小さくなるように接着するようにしなければならない。
 プラスティックと違って金属と言うのは曲がりやすい。プラキットの場合は何も考えずにニッパーでパチパチ切り取っていってもさほど問題は起きないが、金属キットの場合は下手に切り出すと思わぬところに負荷がかかりそこが曲がってしまったりしやすい。特に、GMのスハ32・オハ35をベースとするコンバージョンキットの場合、車端雨どい部が非常に曲がりやすい。まぁ、曲がっても戻せるからいいといえばいいのだが、派手に曲がってしまった場合、その部分が波打ってしまったりするので嬉しくない。そんなわけで、ランナーから切り出すときも、何処から順に切り離していくか、と言うのを少し考えた方がいい。ちなみに、定番ツールではあるが、ハセガワのエッチング用はさみは使える。これは買っても損はない道具だと思う。道具に金をかけるのは悪いことではない。
 エッチングの宿命で、コンバージョンキットの側面雨樋はのっぺりとした凸モールドがなされているだけであり、この「のっぺり感」を無くすために別張り用の雨樋が発売されている(確認できているだけでレイルロードとキングスホビーから出ている)。元々別張り用雨樋パーツがついてるキットには説明書にも書いてあるが、この雨樋を張るときには内張と外張を接着する前に外張に貼り付けなくてはいけない。そうしないと取り付けにくい上に綺麗につけられない。また、半田付けする場合には車体中央から順に両端の方に少しずつつけていく方がいい。この作業も熱による伸縮で板が反ったりするので注意が必要である。また、両端部に関してはきちんと半田を流しておかないとちょっとした拍子に外れてしまって泣きを見るのでこちらも注意が必要である。なお、瞬接での作業に関してはやったことがないので何とも言えない。同じことがリベット付シル・ヘッダーを取り付ける作業に関しても言えるが、コンバージョンキットにはあまり関係のない話だとは思う。
 コンバージョンキットは大体何処のメーカーも似たような構造になっていて、何処のメーカーが特別どうだ、と言うようなものというのはあまりない。そんな中、やや異彩を放っているのがkitcheNではないだろうか。組んでいて感じるのは細部にいたるまで非常によく考えられた構成である。まず気がつくのが、側板の、外・内を折り返して重ねればOK、と言う構成であろう。この構造のおかげで面倒な内張・外張の位置決めを一発で決めることが出来るわけである。ただ、この構造に関しては、場合によっては両者を切り離して、普通のコンバージョンキットのように内張・外張を接着した方がいいこともある。また、kitcheNから出ている製品は荷物車や郵便車が目立つのだが、荷物ドア等の位置決めも床板止めなどがガイドとなって一発で決まるなど、組んでいて感心させられることが少なくない。妻板と側板の接合もパシッとはまってくれ、組んでいて嬉しくなる。筋彫りもしっかり入っており、ここのメーカーのキットは、ある程度の数をこなしたモデラーにとっては極めて組みやすいものではないか、と思う。ただ、板厚が薄く、他のキットと同じような感覚で扱うとあっさり折れ曲がってくれたりするので、扱いに注意が必要ではある。また、割と半田前提っぽい部分も散見され、説明書にも「改造経験者向けのものです」と書かれてあるとおり、今までまったく金属キットを触ったことのない人間には少々荷が重いかもしれない。もっとも、一番の問題は、残念なことにこのメーカーの製品が生産数が少なく、手に入りにくいことかもしれないが。

トータルキット・主にキングスホビーのキットについての雑感

 Nゲージの金属キットとしては比較的少数派の、半田付けが前提となっているキットを多くリリースしているメーカーの一つがキングスホビーであり、その中にはこの時代の車両として使える車両も少なくない。ここの客車キットを見ていて、あるいは組んでいて気になった点をいくつか。
 まず気になるのが、何故にシングルルーフ車は例外なくリベット表現が成されていないのか、である。無論、「全車にリベットがない車種」にリベット表現があるのは変だし、「リベットがない車両もある車種」でリベットがないというのも別に変ではない。然るに、「全車リベットがある車種」まで、リベットなしにする必要性があるのだろうか。具体的に言うと、スハ33000(オハ34)・スハネ30100(スハネ31→オハ34)・1号編成供奉車がこれに該当する。まぁ、供奉車以外に関しては個人的にはどうでもいい車両なのでいいといえばいいのだが、供奉車に関しては無関係とは言えず、先の章でも述べたとおりかなり強い不信感を抱いてしまった。あくまで個人的な感情ではあるが。
 今まで私が組んできたキングスのキットはほとんどがダブルルーフの客車キットで、他にはわずかにEF56を組んだだけである。そうして組んできた印象としては、「まぁ、組みにくいキットではないな」といったところである。そんな中で、組む際に気をつけたい点を少々。
 まず、構成上このメーカーのキットは半田付けが原則となる。客車キットの場合、車体にデッキ部のドアを差し込んでそして半田付け、というかたちになるのだが、この差し込み部が場合によってはうまく合わないことがあるので、事前にちゃんと調整をしておきたい。半田ごてを温めて、さぁ半田付け、というときになって合わないとめちゃめちゃ焦るのである。そうしてドアを固定したら、そこにロストワックス製(ダブルルーフ車の場合)の妻板をさらに半田付けすることになるのだが、このロストワックスという代物、製法上表面にロウが残っていることが往々にしてあり、これをちゃんと除去しておかないと、いくらフラックスをつけても半田が流れてくれず、泣きを見る羽目になる。したがって、半田付けする前にキサゲ刷毛や耐水ペーパーなどで半田付けする面をちゃんと磨いておかねばならない。これは何もキングスのキットに限ったことではなく、ロストワックス製のパーツ全般にいえることである。
 納得できない製品も少なからずあるものの、ダブルルーフ車の中には使える車両もあるので、このメーカーの製品を組むためにもやはり半田付けをマスターしたいものである。もっとも、少々値が張るのも、このメーカーの難点ではあるが…。

四.「窓枠移植」という技術

 根気さえあれば、縦にリベットが走っていない在来型客車なら大抵の車両を物にすることが出来る技術、それが、「窓枠移植法」である。方法はいたって簡単。まず、作ろうと思う車両を決め、その窓配置を図面集などを使って調べる。そして、リベットがある車両の場合はGMのスハ32を、ない場合はオハ35を用意し、シル・ヘッダー間の窓柱等をきれいに削り落とす。そこへ、別の車両キットから削りだした窓枠部と窓柱部を、図面とにらめっこしながらはめ込んでいき、接着剤で固定する。後は継ぎ目などを綺麗に処理して、普通のキットのように妻板と屋根を接着、塗装して完成、とただこれだけである。原理的には単純極まりないこの技術、人によって若干手法が異なるようだが、ここでは私が今までやってきた方法をもう少し具体的に述べていこうと思う。
 まず、非常に根本的なことなのだが、実は、GMのスハ32・オハ35、スケールよりも約1mm短いのである。このことを忘れて、あるいは知らないで窓枠移植をやってしまうと泣きを見ることになりかねないので注意したい。じゃあ、具体的にどうすればいいのか、というのはそれはもはや個別ケースと各々のセンスの問題なので何ともいえない。一般的には何箇所かに分散させてその寸法のずれを吸収させる、という方法になるだろう。
 この手法で、恐らくもっとも面倒くさいのが窓枠を切り出す作業であろう。人によっては他のキットから削りだすのではなく、プラ板で新たな窓枠部を作る、という方法をとる人もいるようだが、正直なところ綺麗な作品が出来るとは思えない。よほどの達人ならともかく、とりあえずは既製品のキットから削りだす方が綺麗には仕上がるはずである。コストはかかるが。ただ、コストと言ってもコンバージョンキットとさほど変わらないか、場合によってはそれ以下で出来るので、言うほど高いものではない。ここはケチる部分ではない。
 では、実際にどうしたら窓枠を綺麗に切り出せるか。これは数をこなしていく中で自分なりのこつを掴むのが一番なのだが、いろいろやってきた中で自分が一番いいかな、と思う方法を簡単に述べてみよう。何かを切り出す、あるいは削りだすときというのはまず大まかにやった後仕上げる、というのが基本であり、窓枠を切り出すのも同じことである。まず、シル・ヘッダーを目安にしてレザーソーやカッターナイフで大まかに切り出し、その後耐水ペーパーで綺麗に仕上げる、というのが私の手法である。当然、ぎりぎりのラインまでカッターなどで仕上げる方が楽である。しかし、やりすぎるとあっさり窓枠が折れてしまうのでその辺の加減は自分の手と体で覚えるしかない。時に、窓枠というのは当然上のほうが細い。そうすると、当然上のほうが強度はないわけであり、その強度のない部分を最後に仕上げるのが得策ということになる。つまり、まず下辺を仕上げてから上辺を仕上げる方が作業中の事故を減らせる、ということになる。
 めでたく切り出せた窓枠を今度はベースとなる車両に接着するわけであるが、この際瞬接を使う人とプラ用接着剤を使う人で分かれるのではないだろうか。私は主にラッカー系シンナーを用いて接着している。これを使うメリットとしては、固着までに時間があるために微調整をじっくりとできるという点と、プラを溶かすためになんとなくごまかしが効く、という点であろうか。反面、デメリットとしては、ヒケがある、ということがまずあり、また完全固着までに時間がかかる、というのもデメリットとなるであろう。逆に、瞬接使用のメリットは乾燥時間が短いことによる作業時間の短縮効果、瞬接自体の隙間埋め効果、ヒケが少ない点、逆にデメリットとしては固着までの時間が短いために微調整の時間が稼げない点、ということになってくるだろうか。どちらを使うかは多分に個人の趣味も関係してこよう。ちなみに、瞬接を使ったことが無いので、その工法がどうなのかは私には何とも言いがたい。
 ここまでくると、もう出来たも同然である。後は普通のキットと同じように組んでいけばよい。ただ、注意したい点として、塗装は一発で決めるようにしたい。これは別に窓枠移植車に限ったことではないのだが、特に窓枠移植車の場合、接着部が非常に弱くなっていて、シンナーに犯されやすい。瞬接の場合はどうかわからないが、ラッカー系シンナーを用いたときはその傾向が特に顕著である。シンナー風呂直行、なんていう憂き目にあった場合、惨憺たる結末を迎えるのは想像に難くない。心して塗装したいものである。最後の最後でこけないためにも。
 以上のような工程を踏むだけで、他の人が持っていない車両を比較的安価で(コンバージョンキットと大して変わらないコストで出来ることが多い)手にすることが出来るのである。絶対に習得して損のある技術ではない。

 伍.捨てがたき車両たち、各論

 ここまで、「一般論」をつらつらと並べてきたが、ここからは「そのものずばりの製品は出ていないが物にしたい車両」について、物にするためには如何にすればいいのか、ということについて私なりに思うところなどを述べていこうと思う。

食堂車的考察

 この時代の九州急行には例外なく食堂車がついておりその形式・形態ともに多岐にわたっていて実に興味が尽きない。

車端部の埋め方

 旧スシ37740系の食堂車で、戦後マシ28・29へと復旧された車両というのは9両存在する。元来、スシ37740の車端部というのは他の一般型客車と鋼体構造を共通にするためか、扉部がはめ殺しになっており、まるで出入口があるかのような風貌をしている。これに対して、後にシングルルーフで落成した食堂車は出入口部にあたる部分まで外板を延ばし、完全に出入口がない構造となっている(スシ37740もあくまで扉があるかのように見えるだけで、当然扉としては機能していない)。さて、戦後食堂車に復旧された際、この車端部に個体差が生まれた。
食堂車の車端形状
 原型はDである。Aが後の食堂車と同じく側板を延ばしたタイプ、BとCがわかりにくいが、Bが側板を延ばしたタイプではあるがシル・ヘッダーがないタイプ、Cが扉部を平板で埋めてしまったタイプ、である。各車両がどのタイプになるのかということを一覧にしたのが次の表である。

スシ28 1Dマシ29 1B
スシ28 2Bマシ29 2B
スシ28 3Aマシ29 3B
スシ28 4Aマシ29 4B
スシ28 5C
確認したのが写真のみなので、いつ改造されたのか、4箇所全部が同じ形状なのかなど、不明な点もあるが一応上のような状態になっていたようだ。キングスホビーから発売されているスシ37740をこの時代の食堂車として組む場合は、この部分に関しても気を配った上で組んでいきたい。
 最後に、マシ29 0番代の床下機器配置図を載せておく。マロネ49と同じく、参考程度に見ていただきたい。
マシ床下

スハ43・オハ46考

 あくまで、お手軽お気楽な話である。模型で表現する時、という話である。
 Nではスハ・スハフがKATO・GMから出ている。KATOの製品は両方とも原型(ドア窓がHゴムではない)タイプだが、GMのスハフだけはドア窓がHゴムになっている(スハは原型)。これはこれで結構なのだが、トイレ窓までHゴムになっているのが難点か。少なくともこの時代には、トイレ窓がHゴムになった車両というのは存在しないと思われる。スハ・スハフをオハ・オハフにするのは結構簡単で、ドアをHゴムにして(タヴァサ・レールロードからパーツが出ている)、キャンバス押えを削り、屋根をねずみ色1号で塗ればオリジナルのオハ・オハフらしく見える(と思う)。GMのキットを使うときには、車体側面上部を少し削って、雨どいを薄く見せるとより感じが出る(ような気がする)。スハからの編入のオハはもっと簡単で、ドアだけ変えればOKである(と思う)。
 要は、記号論に近いものがある。

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